災コラム

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避難所と感染症|市役所職員としてコロナ禍を経験した私が考える感染症対策

2026/01/13

皆さんは災害にあったときの備えをしていますか。地震大国に暮らす私たちにとって、避難グッズの備えは当たり前のように根付いています。
では、その中で「感染対策グッズ」の優先順位はどの程度でしょうか。この質問に対する回答は、コロナ禍の前と後で大きく変わりましたよね。

私は熊本地震を経験し、その後のコロナ禍の時期に熊本市役所の職員として働いていました。その数年間の経験は、震災と感染症に対する意識を大きく変えました。この記事では、災害時における避難所や個人でできる感染症対策についてまとめています。私の経験を通して、災害そのものだけでなく、その後の体調管理も含めて自分の身を守る方法をお伝え出来たらと思います。

私が経験した熊本地震

熊本地震
(Photo AC)

熊本地震は、2016年4月14日と16日、2度にわたって震度7の揺れを観測したことで知られています。揺れや規模が特徴的であったことや、震源地である熊本の被害が取り上げられる一方で、大分も大きな揺れに見舞われていたことはあまり知られていません。
しかし実際には、大分でも避難所が開設されるなど、一定の被害がありました。

家族は熊本 自分は大分で避難

なぜ、上記で大分の話題を取り上げたのかというと、私自身が熊本地震を大分で経験したからです。当時私は、大学進学のために地元熊本を離れ、大分市内でひとり暮らしを始めたばかりでした。新生活が無事スタートし母が熊本に戻った数日後、突然スマートフォンのアラートが鳴りました。画面に「震源地 熊本県」の文字が見えた瞬間、大分も激しく揺れ始めたのを覚えています。揺れに耐えながら母に電話をしたことで、まさに今、地元が一番揺れているんだと実感しました。
このときはまだ自宅待機で様子を見ましたが、16日に再び震度7の揺れがきたときには、家族も私も避難をしました。しかし、実家では犬を飼っていたため避難所へは行かず、駐車場のスペースにテントを張って避難生活をしたとのことでした。ペット可の集合住宅だったので避難所に行かない方が多く、車中泊やテント生活を選ぶ人が多くいたそうです。
一方私は、大分の避難所で一晩を過ごしました。今でも鮮明に覚えているのが、避難をしようと家を出たとき上の階の住人に会ったときのことです。私が「避難されますか」と話しかけると、その方は「職場から呼び出された。配属されたばかりで良くわからないが、仕事だからとにかく行く。」という内容を早口で説明しながら階段を駆け下りて行きました。後から知ったのですが、新人の警察官だったようです。
公務員という仕事を経験した今、あのときの新人警察官の方や、お世話になった避難所担当の方には感謝の気持ちでいっぱいです。

帰ることができない地元

大分では熊本ほどの被害はなかったため、通常通りの大学生活が始まりました。
私は、GWに一度帰省するつもりでいましたが地震の影響で断念。また、帰省の目的は、主に引っ越しに伴う手続き関係を済ませることでしたが、震災対応で行政が機能しておらず何もできないというのが現実でした。
いずれにしても、熊本が「隣の県」から突如として「帰れない地元」になってしまったのです。

市役所職員として振り返る、避難所における感染症対策

熊本城
(Photo AC)

短大卒業後の進路として公務員試験を受けた私は、熊本地震から3年目の春に熊本市役所に入庁しました。当時の役所は、入庁後すぐの新人研修や定期的に周知される災害対応のマニュアルなど、とにかく災害対応について徹底した職員教育が行われているのが印象的でした。
特に、熊本地震の際に市職員の初動が遅れがちだったこともあり「どの程度の震度で集合すべきか」という基準については何度も確認がありました。熊本は、台風などの水害の対応には慣れている一方で地震の対応に慣れておらず、その不慣れさが市職員の対応にも現れたのだと思います。
また、日々先輩方と仕事をする中で、当時対応にあたった職員から何が大変だったのか沢山聞かせてもらいました。使えなくなったPCや散乱した書類のなかで罹災証明書を発行し続けたことや、災害動員で家に帰る余裕がなく自宅の被災状況を知らない職員がいたことなど、公務員として災害に向き合うことの大変さ教えてもらった社会人1年目でした。実際、私の教育係を担当してくれた先輩職員は、市役所職員として初めての業務が避難所開設だったそうです。
そして社会人2年目に差しかかろうとする時期に、世の中はコロナ禍に突入しました。

避難所における感染症の事例と見直された対策マニュアル

コロナ禍の時期に世間で出回っていた情報は「感染症対策」が主だったかと思いますが、当時行政が警戒していたことは「災害と感染症が同時に起きたら」ということでした。市役所職員にも対策についての周知が行われ、通常業務とコロナ対策業務に追われていた私は「既に精一杯なのに、いま災害が起きたらコロナは二次被害として警戒対象になるんだ…」とぞっとしたことを覚えています。
避難所で起こり得る感染症として一般的に多いものは、風邪・インフルエンザなどの呼吸器感染症やノロウイルス、また、土砂などに含まれる菌に感染するレジオネラ症や破傷風などです。熊本地震のときは、避難所で多くの感染性胃腸炎が確認されたケースもあります。避難所での感染症は本来コロナにかかわらず警戒すべきですが、コロナは改めて対策の必要性を再認識するきっかけになりました。実際に多くの自治体が、避難所生活の注意点についてコロナ対策を盛り込んだ内容に更新しています。

コロナ禍が与えた避難所における感染症対策の危機感

(Photo AC)

熊本地震のほとぼりがさめないままにコロナ禍になったことで、市役所では様々な議論が上がったり、既存のマニュアルの見直しが行われたりしました。その中でも当時、特に論点となった点は以下のような部分です。

・行政の想定が「避難所で感染症が流行ったら」でなく「感染症が流行っているときに震災が起き、避難所でクラスターがおきたら」に。
→避難所での予防だけではなく、感染症患者が多く被災したという想定が必要。

・患者数の増加だけでなく、被災による医療機関の麻痺。
→医療機関が被災で使えなくなったときの患者の受け入れについて、よりシビアに考えるように。

・元々感染している人を避難所に入れるべきか。また「感染者」の基準はどうするのか。
→感染者の避難所受け入れをどうするのかという問題はもちろん、潜伏期間などを考慮したときに「感染者」「接触者」の基準をどうすべきか。

・ワクチン未接種の人を避難所に入れるべきか。
ワクチンは症状の悪化を抑えるものであり、感染経路を断つものではないので、ワクチン接種の有無で判断すること自体が無意味という意見も。

このような問題に対するベストな対応はケースバイケースで、当時の状況で正しいと思われた対応が現在では違っていることがよくあります。実際に熊本地震とコロナは同時進行ではなかったため、答えの出ないままコロナ禍が過ぎてしまった問題がほとんどです。特にワクチンの問題は、震災に関係なく様々なイベントごとのたびに論点となりましたが、結果として明確な基準が設けられることは少なかったと思います。
しかし、熊本地震の翌年に作成された「熊本市避難所開設・運営マニュアル」がほぼ毎年改訂されていることから、少なくとも避難所のあり方が常に見直されていることはわかりますよね。ちなみに、現時点での最新版である2025年7月改訂版のものには、避難所における感染症対策について以下のような記載があります。当時、受け入れ時点でのマスクの徹底や検温は行われておらず、コロナ禍以降のマニュアルであることがはっきりとわかります。

・避難者受け入れの準備完了後、マスク着用の徹底等の感染防止対策への協力を呼び掛け、避難者を避難所に誘導する(マスクを持参していない者へは配布する)

・入口に消毒液を設置し、避難所に入る際には手指消毒してもらう(アレルギー等特別な理由がある場合を除くが、手洗い等の対策を高じてもらうよう説明する)

・入口で体温測定し、記録表に記載する(長期化する場合は朝・夕検温し、記録)

※車中泊の避難者についても、建物に出入りする際は体温・体調を記録し、体調不良者がいる場合は速やかに本部へ申し出てもらうよう説明する

参考:厚生労働省のHP
   熊本県のHP
   熊本市避難所開設・運営マニュアル

避難所生活における感染症の原因と予防に必要なもの

被災した周囲の人の意見を聞くと、あったらよかった衛生用品としてマスクやウェットティッシュがよくあがります。外から届く支援物資は食料が優先されがちです。コロナ禍を経験したことで、各自治体が今まで以上に衛生用品をストックするようになりましたが、避難生活が長引くことを想定し、自分たちでもある程度の量を用意しておくと良いでしょう。
特に水が限られる避難生活において、ウェットティッシュはとても活躍します。私の実家は犬を飼っていたため、普段から2種類のウェットティッシュ(アルコールあり・なし)をまとめ買いしていました。手・身体・食器など、水で洗う作業をすべてウェットティッシュで代用することができたそうです。また、除菌のためだけに使ったウェットティッシュは、汚れを落としたいときに再利用するなど汎用性の高い使い方ができます。
また、今まで「あれば便利」と言われていた衛生グッズが行政レベルで周知されるようになるなど、避難所生活における衛生管理の重要性が高くなったことがわかります。

市役所職員になったからこそわかること

(Photo AC)

私は、大分ではありましたが(家族のエピソードも含め)熊本地震を身近に経験し、コロナ禍に市職員として働いたことで、災害対策における感染症対策の見直しを直に学ぶことができたと思っています。
上記の数年間は人生の中でも大変な期間でしたが、一市民として地震を経験し、役所という立場でそれを振り返ったからこそわかることが沢山あります。その中でも、「自己責任」という意識を持つことの大切さを改めて伝えたいです。
災害大国の日本で生まれ育つと、国が災害対策をしっかり考えているだろうと思いがちです。もちろんそれは間違いではなく、日本の災害対策は世界的に見ても高水準となっています。しかし、前例のない事態というのは起こり得るものです。そして、前例のないことに関しては行政の対応も遅れがちになります。単純に考えて「市民が未知の状況に遭遇しているということは行政も未知の対応に追われている」からです。実にシンプルな理屈ですが、行政を外から見ているだけでは実感しづらいことですよね。

避難所生活は自己責任という意識を持とう

当たり前ではありますが行政は「全体の奉仕者」であり、細かい部分まで支援が行き届かないことがあります。心苦しいことではありますが、非常時に個人の事情まで対応していたら多くの命が失われるケースもあり柔軟に対応できない事情があるのです。
また、様々な事情により避難所にいけない方が支援物資を求めて避難所に並ぶことも多いようですが、支援物資の中には避難所優先の物もあります。例えば避難所でのクラスターを防ぐためのマスクを避難所にいない方に優先して配るのは意味がありません。もちろん、避難所が配布場所になっているだけで並んだ方が平等にもらえる物もありますが、いずれにしても支援物資が充実し出すまでの数日間は自力で乗り切れるよう準備しておきましょう。

被災状況と感染症状況は刻一刻と変わる

事前の備えをしっかりしていても、最新の情報を集め続けることは大切です。被災時の状況は刻一刻と変わります。最近ではSNSの情報が早く便利かと思いますが、信憑性にかける場合もあります。錯綜する情報に振り回されると、物資をもらうつもりが無駄足になることも。自治体のHPなど公的機関の情報とSNSの両方を上手に使い分けることが大切です。
また、SNSの公式アカウントを持つ公的機関も増えてきていますので、スピードと正確性を兼ね備えたツールから情報を集めるように心がけましょう。

まとめ

(Photo AC)

今回は、被災時に想定される感染症の危険性について説明してきました。
普段から避難グッズをまとめているかたは多いと思いますが、その中に感染症対策に使えるものはどのくらい入っていますか。最後に、食料や飲料水など生存に必要なもの以外に、感染症対策としてあったらよかったものをいくつか挙げてみます。

  • ウェットティッシュ
    水が貴重になる被災時において、清潔を保つのに役立つ。また、除菌だけに使用し汚れていないものは、普通のティッシュとして活用できる。
  • ラップ
    手で触れずに食べ物をつかむ、お皿に敷くなど、つねに清潔な状態で食事を取ることができる。
  • マスク
    支給品では数が確保できず好きなタイミングで変えることができないことも。予備として自分でも準備しておくと良い。
  • 生理用品や脇パットなど
    本来の使用目的だけでなく、お風呂や着替えの環境が整うまで下着を清潔に保つことができる。
  • 飲料水以外の水
    どうしても洗浄が必要になったとき飲料水を減らさなくても良いように、適当な容器に水道水を確保しておくと便利。

また、各自治体のマニュアルを読んでいただくとわかるかと思いますが、避難生活が長期化した場合には、起床・就寝時間の固定や、意識的な運動の機会などに気を配るよう指示が記載されています。被災者ひとりひとりが避難所担当者の指示を守り集団生活を送ることで、心身ともに健康を保てるようなマニュアルになっているのです。

いかがだったでしょうか。被災したときの状況がどうであろうと、自分の力で自分の体調を管理できるよう、ご自身の備えが万全か今一度確認してみましょう。全員でこの意識を持つことが、安全な避難生活を支えることに繋がります。

ながさき ひな

ながさき ひな

熊本生まれ熊本育ちのフリーランスライター。
熊本地震を経験した後に市役所へ入庁したことで、震災への危機感を仕事を通して学んだ。業務内容は、子ども福祉全般を担当としつつも、新型コロナウイルス対策業務を兼任。
現在は、音楽大学出身、元公務員という経歴をいかし、音楽、福祉、地元紹介など幅広いジャンルの記事を執筆している。