災コラム

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BCP(事業継続計画)はむずかしくない!超簡単に策定できる具体例も紹介

2023/02/17

事業継続計画 BCP Business Continuity Plan

企業や店舗にはBCP(事業継続計画)策定が推奨されていて、2024年4月から介護施設ではBCPの策定が義務化されることが決まっています。

既に大手企業などではBCP(事業継続計画)が策定されて、災害からの早期復旧ができる仕組みが構築されています。しかし、中小企業や店舗単位では「なんのことか分からない!」との声も多く、BCP策定に積極的ではないことが多いでしょう。

確かに言葉だけ聞くと難しそうですが、実はそうでもないのです。今回は、自治体の防災計画策定にも携わってきた経験を活かして、みなさんに超簡単にBCPを作れるコツをお伝えします。

まずはBCP(事業継続計画)が何か把握しよう!

BCPを策定するには「BCPとはどういうことなのか」を、知る必要があります。BCPは「Business Continuity Plan」の略語で、日本語では「事業継続計画」と訳されています。

策定する目的は、企業の機能を早期に復旧させる計画を立てることにあります。

震度6強の地震が起きたとしてシミュレーションしてみる

たとえば、震度6強の地震が起きたことを想定しましょう。震度6強の地震が起きれば、相当の被害が発生することは、簡単に想像できるはずです。

公共交通機関はマヒして、都心部でましてや帰宅時間帯であれば何十万人もの帰宅難民が発生します。そこで必要になるのがBCPであり、各企業が従業員の生命を守り早急に業務が行えるようにしなければなりません。

ここでよく質問されるのが「災害時に仕事のことを優先するべきではないのでは」ということです。確かに大きな地震が起きて命の危険があるような時に、仕事の復旧を考える余裕はありません。

ただ、BCPも業務のことだけを考えている訳ではないので、次からはその辺を順番に解説しましょう。

従業員の安否確認が最優先となる

BCPの最優先事項は「災害発生時の従業員の安否確認」となり、つまり仕事優先ではないということです。安否確認にも条件があり、次のような状況を考えればよいでしょう。

  • 1:災害時の従業員の安否確認を誰が行うのか
  • 2:災害時に従業員から安否の連絡をする方法
  • 3:安否が確認できない時の対応

「1」については、担当者をひとりに限定しないで、複数人で担当すると確認がスムーズになりますが、確認する担当は企業や店舗の規模に応じて決めるのが妥当です。また「2」の自分が無事である場合は、自らが会社に連絡する手段を採用することが望ましいです。

これは家庭内での家族の安否確認も一緒で、無事でありどこに避難しているかを自らが連絡することで、安否確認がスムーズに短時間で行えます。

最後に「3」で安否が確認できない従業員については、警察に届けるなどの対処法を決めておきます。災害時に誰かが探しに行くと二次被害が起きるリスクが高いので、然るべき機関にゆだねる方が無難です。

次に社内の物的損害を確認する

従業員の安否確認と同時並行もしくは安否確認の後に、社内の物的損害を確認します。

  • 1:業務で使用するパソコンは無事か
  • 2:装置などが壊れていないか

会社のビル自体が倒壊していれば別ですが、耐震化が進んでいるので、現在の建物の多くは倒壊をまぬがれる状況にあります。

ただし、ビルの中の被害は大きいでしょう。停電が発生している可能性も高いので、すぐにパソコンやサーバーなどの稼働を確認することはむずかしい状況です。

したがって、ディスプレイの画面が割れていないか、パソコンの本体が破損していないかなどの物理的な損傷を把握するに留まります。BCPではこれらの状況を考慮して、どのような方法で機器の確認をするのかを決めておきます。

業務が再開できる最少人数と方法

BCPは災害後に早期に事業を再開できる計画を立てるものですから、人的損害と物的損害を確認した後に、最低何人いればどれだけの事業が再開できるかを計画します。

たとえば、災害による遅延が発生する旨を、顧客に対して知らせることを第一の目標にするなら、数人程度が稼働できれば十分です。その後、停電も復旧しパソコンなどの稼働を確認して、故障数が多い場合は機器の調達先を決めておきます。

  • 1:営業を再開する最初の仕事を決める
  • 2:その仕事に必要な人数を決める
  • 3:パソコンなどの機器が不足する際の調達先を決める

これらの事項をBCPで決めておけば、やることが分かるので営業再開が早くなります。

BCPは営業を再開する方法を決めておくマニュアル

ここまで簡単にBCPで決めておくことを説明してきましたが、BCPは災害にて停止した営業を、再開するまでの方法を決めておくマニュアルと考えれば難しくありません。

仮にですが、店舗で「うちは電気やガス、水道が完全普及するまで営業は再開しない」と決めるのもBCP策提案のひとつになります。絶対にこうしないとダメな決まりはないので、企業や店舗の規模、社会的立場を考慮して内容を決めればいいのです。

ライフラインや公共交通機関に携わる企業は専門部署がある

事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-
令和3年4月 内閣府 防災担当

出典:事業継続ガイドライン
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/pdf/guideline202104.pdf


電気・ガス・水道などのライフラインや、インターネットプロバイダ、携帯電話通信事業者、JRや私鉄などの公共交通機関を担う企業では、災害から1分でも早くサービスを提供できるように、専門部署がありBCP策定を行っています。

これらの企業のサービス提供を受けないと、ほかの一般企業は復旧に至りません。したがって、綿密な計画が立てられて専門的な人員の確保もされています。

これらの企業と同等に考えてはいけない

一方で一般的な企業や店舗でBCPを策定するなら、これらの企業と同じに考えると何もできません。資本力も人材も規模が違うので、同じことができないのは当たり前です。

しかし、政府が発行するBCP策定のガイドラインは、ほぼ大企業レベルで専門用語のオンパレードです。これが、一般の企業や店舗にBCPが浸透しない理由のひとつであるといえるでしょう。ここでガイドラインの中身を少し確認すると、次のような文章が見られます。



ガイドラインの目的(引用:事業継続ガイドライン)

本ガイドラインの目的は、事業継続の取組、すなわち事業継続計画(BCP)を含めた事業継続マネジメント(BCM)の概要、必要性、有効性、実施方法、策定方法、留意事項等を示すことで、我が国の企業・組織の自主的な事業継続の取組を促し、ひいては我が国全体の事業継続能力の向上を実現することである。取組の普及に対する政府の期待はもちろん、経済・社会全体の期待も大きいところであり、各企業・組織における積極的な検討を願う。


この目的の文章を見ただけで「なんのこと??」となり、策定する気になりません。これはあくまでも専門的な知識を持っている企業などが分かることで、専門部署がない企業や店舗では敬遠するのは当たり前だと感じてしまいます。

まずは従業員の生命と安全を守ることを考えれば問題なし

一般の企業や店舗でBCPを策定するなら、まずは従業員の生命と安全を守ることを手順化すればいいと、個人的には考えています。

その理由は難しいことを考えて非現実的なBCPになり、災害時に実行できなければ意味がないからです。そこで、超簡単で誰でも策定できるBCPの具体例を紹介しましょう。

その1:従業員の安否確認と安全の確保

  • 第1条:災害時の従業員の安否確認
    災害時の従業員の安否確認は○○さんが行う(営業課長が行うなどでも可)従業員リストを作成し、リストに確認時間と安否の状況を記載する。

  • 第2条:災害時の安否連絡
    全従業員は災害が発生した際に社外にいる場合、災害用伝言板(WEB171)に「氏名・安否の状況・避難場所」を登録する。なお災害用伝言板(WEB171)への登録番号は「090-1234-5678」とする。
    具体的には、次のような内容で登録をすること

  • 第3条:安否不明者の対応
    ○○さん(営業課長)は全社員の安否を確認し、社長に結果を報告する。安否不明者が存在する場合は、安否確認から1日経過しなおも不明の場合に限り、社長が警察にその旨を連絡する。

  • 第4条:社内で安全に過ごせる環境の整備
    災害時に社員が帰宅できない場合には、社内を生活の場として開放する。そのための非常食の備蓄および寝袋の確保やインフレータブルマットなどの就寝装備も確保する。保管は倉庫でなくフロアに専用ロッカーを設置し保管する。

その2:営業再開の手段

  • 第1条:停電が解除され通信が可能になった時点で、稼働できる社員によってできることから営業を再開する。内容については、その状況に応じて社長が指示を行う。

これだけでBCPはOKです!社内の備蓄や寝具は重要

先に記載した「その1とその2」だけで、BCPの策定は完了します。営業再開の手段はその時の状況が分からなければ、決めようがありませんし、電気が使えてインターネットが使えないと、ほとんどの業務ができない場合が多いでしょう。

したがって、その時の状況に応じてトップが判断して指示をだせば問題ありません。それよりも、従業員の安否確認と帰宅困難な状況下で、社内にてどうやって過ごすかを決めておく方が重要です。

電気や通信が可能になっても、従業員が健康でないと営業再開はできませんからね。社内に飲み物と食料の備蓄は重要ですし、寝るための装備も意外に重要です。

フロアの床に寝ることとなるためキャンプ用品が便利で、床に敷けるインフレータブルマットや寝袋があれば、床の上でもしっかり睡眠をとることが可能です。しかも小さく収納できるので、保管するにも便利です。

簡単でもBCPを策定しておけば災害時に安心できる


先に政府のBCPガイドラインの目的の文章を紹介したように、どうも役所の文章は難しくて、分かりにくいです。これまで、自治体の防災計画策定に携わってきましたが、自分で作っていて「この文章の意味は、職員が分かるのだろうか?」と思いながら作っていました。

自治体や専門的な部署のある企業は別にして、先の記事内で紹介した簡単なBCPでも、策定しているのとしていないのでは、災害時には大きな違いがあります。

災害用伝言板(WEB171)は全員で体験しておくのがベスト

災害時に最も必要なことは「安否確認」であり、これは企業でも家庭でも変わりません。そして最も便利なツールが「災害用伝言板(WEB171)」で、大規模な災害が発生した際には無料で利用できます。

しかも一般回線が使えなくても利用できるメリットがあるので、安否確認には優れたツールです。ただ、災害時にいきなり使うとなれば、どのように使っていいのか分かりません。確認用の電話番号の登録方法や使い方は、利用しないと分かりませんからね。

災害用伝言板(WEB171)は、次の期間に体験利用できるようになっていますから、従業員全員にて体験利用でシュミレーションしておくことをおススメします。

  • 毎月1日、15日 00:00~24:00
  • 正月三が日(1月1日00:00~1月3日24:00)
  • 防災週間(8月30日9:00~9月5日17:00)
  • 防災とボランティア週間(1月15日9:00~1月21日17:00)

災害用伝言板(WEB171)は、こちらからアクセス可能です!
https://www.ntt-east.co.jp/saigai/web171/index.html

まとめ

今回は災害時のBCP(事業継続計画)について、策定する意味と内容について解説してきました。政府や自治体など役所からのPRでは、専門的な部署がない限りどのように策定すればよいか分かりません。

しかし、BCPは難しいものではなく、簡単に作ることができます。記事内にはそのままBCPとして使用できる、超簡単な具体例も掲載してあります。難しく考えずに、企業や店舗の規模、条件に合った内容で作ればOKです。

「BCPには興味があったけれど、難しくて分からない」などと、お悩みの方の参考になれば幸いです。

栗栖 成之

1963年広島県呉市生まれ。現在は兵庫県に在住し、1995年阪神淡路大震災を経験。
2014年からWEBライターを開始して、執筆した記事は3,000以上。
2017年に防災士を取得し、現在防災関連の記事も多数執筆中!