災コラム

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台風では高潮に要注意!海から離れた場所でも浸水する理由とは

2023/08/11

毎年のようにやってくる台風ですが、大雨や強風以外にも気を付けたいのが高潮です

台風など強い低気圧が上空にやってくると、海面の水位が上昇し高潮が発生します。これまでも高潮による浸水被害が多く発生し、海から離れた場所でも腰の高さまで浸水したケースもあるのです。

そこで今回は、台風時に注意したい高潮について詳しく解説します。

高潮のメカニズムには2つのパターンが存在する

まずは、高潮のメカニズムについて解説しましょう。高潮が発生するには2つのパターンがあり、それぞれが複合して高潮が起こります。

大気圧が低くなると起こる吸い上げ現象

出典:高潮・津波災害ポータル広島

https://www.takashio.pref.hiroshima.lg.jp/portal/help/sakusei_1.html

大気圧が低下すると「吸い上げ」と呼ばれる現象が起こり、名前のとおり海面が上空に吸い上げられるように上昇します。

大気圧が1hPa低下すると海面は約1cm上昇するため、100hPa低くなると海面は約1mも上昇します。

平常時の大気圧は約1,013hPaですが、台風が上陸するとどうなるでしょう。次に、大気圧で見る台風の強さを一覧にしてみました。

台風の強さ hPa(ヘクトパスカル)
弱い 990hpa以上
並み 960~989hpa
強い 930~959hpa
猛烈 900hpa

大気圧にて台風の強さを分類すると概ねこのように分けられますから、弱いとされる台風でも「約1,013hPa-990hpa=23hpa」となり、海面は約23cm上昇します。

「猛烈」に分類される900hpaなら、確実に1m以上海面が上昇することが分かります。

強風による吹き寄せ

出典:高潮・津波災害ポータル広島

https://www.takashio.pref.hiroshima.lg.jp/portal/help/sakusei_1.html

2つ目のパターンは、台風による強風が海の沖から海岸に向かって吹き続け、海水が陸側に吹き寄せられて海面が上昇する「吹き寄せ」が起こることです。

この現象による海面上昇は、風速が早く湾の形状がV字型になっているほど、海面の上昇が大きくなるため特に注意が必要です。

沿岸部だけが被害を受ける訳じゃない

台風時に高潮が発生するメカニズムを見て「沿岸部に住んでなくてよかった!」と、安心してはいけません。

高潮は津波と同様に、沿岸部だけでなく内陸部にも浸水被害をもたらせます。そう考えると、滅多に起きない津波よりも、台風がやってくるたびに発生する高潮の方が、より恐ろしい災害になっています。

ここでは、高潮で起きる浸水被害について詳しくお伝えしましょう。

広島県の高潮ハザードマップを確認

出典:高潮・津波災害ポータル広島

高潮ハザードマップ

https://www.takashio.pref.hiroshima.lg.jp/portal/map/MapTakashio.aspx

これは、広島県港湾漁港整備課が提供している、高潮ハザードマップです。着色されている地域が高潮によって浸水が予想される地域であり、沿岸部のみに留まっていません。

なんと、山陽自動車道の広島ICがある、海岸から10km以上も離れた場所まで浸水が予想されています。したがって「沿岸部でなくてよかった」では済まないことがお分かり頂けるでしょう。

川を遡上して越水し内陸部でも浸水被害となる

なぜ、高潮が発生すると、このような沿岸部から遠く離れた地域まで浸水するのでしょう。

その理由は、海から押し寄せた海水が川をさかのぼってあふれだすからです。先の高潮ハザードマップでは、広島市の三角州地帯を形成している太田川を海水がさかのぼり、山間部ともいえる場所まで浸水被害を起こしてしまう危険を示しています。

また、広島市内はほぼ全域に渡って浸水する危険があるとされているのも、沿岸部からの浸水だけでなく河川からの浸水被害も大きな原因です。

高潮はさまざまな被害を引き起こす災害となる

高潮は単に浸水だけでなくさまざまな被害を引き起こす災害で、津波と同様の破壊力を持ち合わせています。

つまり、高潮の被害は相当なものとなり、人的被害や物的被害など大変な状況に陥ってしまうのです。

高潮被害の予想例

高潮にて起き得る被害を予想すると、次のような被害を挙げることができます。

被害種別 内容
人的被害 溺死・漂流物によるケガ・病気
家屋被害 浸水・流出・破壊
交通被害 鉄道、道路、港湾、空港が水没・各構造物の崩壊
ライフライン 水道、電力、通信、下水道の全てが機能を失う
火災 家屋や工場、ガソリンスタンドなどからの出火

このように、高潮は津波で被害を受けた状況と、ほぼ同様の被害が予想されます。

過去の高潮被害を確認

出典:国土交通省 どのような高潮が起こったの?

https://www.mlit.go.jp/river/kaigan/main/kaigandukuri/takashiobousai/03/index.html

これまで実際に、高潮で被害の予想のような事態になったことを知らない方も多いでしょう。

2004年(平成16年)8月、香川県高松市では960haまで発達した台風16号によって、潮位が護岸を約70cm上回り、15,651戸の浸水が発生、2名の方が亡くなるなど大きな被害となっています。

広島県でも平成に入って複数の高潮被害が発生している

高潮被害は全国的に起きており、広島県でも平成に入ってから複数回の高潮被害が発生しています。

1991年(平成3年)9月、台風19号が広島県の西~北を通過した際に、満潮時と重なったため記録的な高潮が発生しています。人的被害も55名にのぼり、この内6名の方が亡くなっています。

また、1999年(平成11年)9月の台風18号では、さらに記録を更新する高潮が発生。人的被害は65人にのぼり、死者も5名となってしまいました。

直近では、先の香川県と同様となる2004年(平成16年)8月の台風16号および9月の台風18号では、人的被害は147人にもなり5名の方が亡くなっています。

【2004年(平成16年)9月:台風18号による高潮被害の被災状況】

出典:高潮・津波災害ポータル広島

https://www.takashio.pref.hiroshima.lg.jp/portal/help/haikei_2.html

高潮被害は台風の被害として認識されている

このように、高潮の被害はあまり知られていませんが、大きな被害となっているのです。

なぜ、津波のように高潮被害が広く知られていないのかというと、高潮被害は台風が通過する際に起きるので、台風の被害の一部として認識されているからです。

これを機に高潮被害は、大きな爪痕を残す災害であることを知っておきましょう。

高潮被害は満潮時に特に注意が必要

海面は潮汐(ちょうせき)と呼ばれる、月と太陽との引力を原因とする「潮の満ち引き」が生じています。

海水面が最も高くなることを「満潮」と呼び、海水面が最も低くなることを「干潮」(かんちょう)と呼んでいます。この潮汐(ちょうせき)は自然現象であり、予測は可能ですが止めることはできません。

満潮時に高潮被害は起きやすい

先に高潮のメカニズムをお伝えしていますが、それぞれの現象が、海水面が最も高くなる「満潮時」に起きれば、海水が防潮堤を超えてしまう可能性が高くなるのは容易にイメージできるでしょう。

これまでの高潮被害も、台風の通過が満潮時に運悪く重なって起きていることから、満潮時には高潮被害が起きやすいので要注意です。

海の干満は気象庁のサイトで確認できる

海釣りが趣味の方などは、スマホに「潮見表」を搭載したアプリをダウンロードしている方も多いでしょう。

そうでなく「取り敢えず近くの海の干満を知りたい」といわれる方には、気象庁のサイトが便利です。気象庁の潮位表のサイトにアクセスすれば、選択した地域の干潮と満潮の時間が分かります。

たとえば「中国地方⇒広島」を選択すると、次のように、現時点から2週間の潮見表を確認できます。

出典:潮位表 広島(HIROSHIMA)

https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/suisan/suisan.php?stn=Q8

気象庁の潮位表サイトはこちらからアクセス可能です。

https://www.data.jma.go.jp/kaiyou/db/tide/suisan/

高潮被害の対策は早期避難と、海岸や河川に近づかないこと

高潮被害は記事内でお伝えしているとおり、人命を失うほどの災害となり、家屋や道路、インフラなどさまざまな被害を起こしてしまいます。

ここでは、身を守るための対策と注意点を解説しますのでぜひ参考にして頂き、高潮から命を守る対策を実行しましょう。

高潮ハザードマップで自宅が浸水するか確認しておく

一番重要なことは、高潮ハザードマップにて自宅が浸水するかを確認しておくことです。沿岸部でなくとも河川が近くにある場合は、海水が川を遡上して越水を起こし浸水被害を引き起こします。

また、先の広島市内のように河川沿いでなくとも、市街地全体が浸水する地区もあるため、ハザードマップの確認は必須です。

全国の高潮ハザードマップを確認するなら、国土交通省が提供している「重ねるハザードマップ」 (https://disaportal.gsi.go.jp/)が便利です。

画面左にある「災害別で選択メニュー」から「高潮」を選べば、全国の高潮による浸水想定が確認できます。したがって、自宅だけでなく勤務先や両親の地域、お子さんの通学先など、あらゆる地域のリスク確認が可能です。

地区全体が浸水するのに、どこに逃げるの?

先の広島市のように「地区全体が浸水するのに、どこに逃げれば良いの?」と、思う方もいるでしょう。これは津波と同様に、高い場所や、公民館や学校などの高さのある施設に避難します。

なお、浸水想定が3m未満なら2階以上に避難すれば大丈夫ですが、3m以上になると3階以上の施設に避難する必要が生じます。

ハザードマップには、高潮時の避難先もしっかり記載されているので、避難が可能な避難所を把握しておきましょう。そうしないと、浸水してしまう避難所に行ってしまう可能性もあります。

そのような避難所に向かってしまうと、開設されていませんし、危険なためまた移動しなければいけません。避難が遅れてしまうこととなるので要注意です。

浸水が始まる前に早めに避難すること

浸水が予想されるときの避難方法は早期避難が鉄則であり、浸水が始まってからの避難はとても危険です。建物さえも破壊してしまうほどの威力があるため、浸水の流れに飲み込まれるとどうしようもできません。

特に、3m以上浸水が予想されている地域では、自宅2階への垂直避難もできないので、台風が近づく前の高齢者等避難が発表された時点で、避難所に移動することをおすすめします。

浸水しない地域でも海岸や河川を見に行ってはいけない

浸水が予想される地域でも浸水深が1m未満なら、自宅避難する方も多いです。そんな方や浸水が予想されない地域の方でも、海岸や河川に状況を見に行くことは絶対にしてはいけません。

危険な場所に自ら近づく行為は、燃えている建物に入っていくようなもので「死亡する確率をアップさせる」ことにつながります。

状況を見たからといって、台風や高潮を止めることはできないのですから、危険な行為は慎むべきでしょう。

逃げ遅れたらどうするの?

万が一、逃げ遅れてしまって既に道路の浸水が始まっているなら、すぐに高潮ハザードマップで現在地の浸水深を確認します。

浸水が3m未満なら自宅の2階へ垂直避難が可能ですが、3m以上なら3階以上の建物に避難しないといけません。現時点から最も近い3階以上の建物に、緊急避難することが望ましいです。

ただ、近くに利用できる建物が直ぐに見つからないケースも多く、そのような場合に人的被害を受けてしまいます。やはり、常に災害への意識を高く持つことが必要でしょう。

まとめ

今回は高潮について、発生するメカニズムやこれまでの被害状況、対策などを解説しました。

高潮は津波と同様に大きな破壊力を持っていて、台風にて発生するため津波被害よりも頻繁に起きている災害です。高潮への対策は、高潮ハザードマップで自宅や会社などが浸水するのか、浸水するなら何メートルなのかなど、情報確認が重要です。

そして、避難が必要な場合、自宅で垂直避難するか、避難所へ向かうのかによってタイミングも異なってきます。避難所に向かう場合は、台風が近づく前がベストです。早期に避難することで、身の安全を確保できます。

高潮は海岸部だけでなく河川をさかのぼって、沿岸部から遠く離れた地域でも浸水を起こします。記事内で紹介した重ねるハザードマップで、危険度と避難先の確認を行い台風時の高潮被害に備えましょう。

栗栖 成之

1963年広島県呉市生まれ。現在は兵庫県に在住し、1995年阪神淡路大震災を経験。
2014年からWEBライターを開始して、執筆した記事は3,000以上。
2017年に防災士を取得し、現在防災関連の記事も多数執筆中!